本ページでは,オープンバッジに関する取組の事例,特にオープンサイエンスや研究データ管理と関連する取組について紹介しています.
オープンバッジの発行・管理については国内外で既に多くのサービスが提供されています.
1EdTech Consortium(旧IMS Global Learning Consortium)は,オープンバッジの標準規格の普及を推進し,関連機能の開発を進めています.国内で利用の多いLMSであるMoodleもバージョン3.8以降でオープンバッジ発行に対応しており,CredlyやCanvas Badgeなどのサービスでは発行と管理の機能を提供しています.国内での活用事例も増加しており,サイバー大学は文部科学省の認定プログラムと連携して学習者にバッジを発行しているほか,デジタル庁もデジタル推進委員に対してバッジを発行する取り組みを行っています.
IBMではオープンバッジを活用した技術の習得を目指しており,開発者向けにコンテンツの学習やバッジの取得を提供しています.さらに,社会貢献の一環として無料で公開されているIBM Skills Buildでは,幅広い学習コンテンツおよびバッジの提供がされており,学習者が入力したプロファイル情報をもとに,取得が推奨されるデジタルバッジをレコメンドする機能も提供されています.
オープンバッジを含むデジタルバッジの取り組み事例については,以下の書籍およびリンク先で紹介されています.
オープンサイエンスの文脈では,NASA の Open Science 101でオープンサイエンスに関する学習でオープンバッジが発行されています.Open Science 101 カリキュラムは,研究者,学生,市民科学者がオープンサイエンスの原則と実践を理解,データ管理計画を立てるための知識とスキルを身につけるために設計された5つのモジュール(オープンサイエンスの潮流,オープンツールとリソース,オープンデータ,オープンコード,オープンリザルト)で構成されています.Self-Paced Virtual Trainingでは,Open edXで構築されたMOOCプラットフォーム上で自分のペースで学習,バッジを取得することができます.
また,EUのErasmusプロジェクトであるOpen Badge Ecosystem for the Recognition of Skills in Research Data Management & Sharinされるオープンバッジと,研究データ共有 (RDM) スキルに関連するバッジのセットが提供されています.オープンバッジはRDMのコンピテンシーフレームワーク紐づけらされているため,類似する学習プロジェクトの提供者は関連するスキルのバッジを発行するといった運用が可能となります.
なお,国立情報学研究所が提供するGakuNin LMSでも,研究データ管理やオープンサイエンスと関連するサービス利用の学習修了に対してオープンバッジを発行する取組を実施しています.GakuNin LMSでは,以下のようなオープンバッジを発行しています.
本ページでは,オープンサイエンスに限らず,クレデンシャルの一般的な背景について概要を説明します.
これまで,高等教育機関が発行する証明書とは,学習者が一定のカリキュラムを修了したことを証明する卒業証明書や成績証明書などのマクロクレデンシャルと呼ばれるものが主要なものでした.
一方,マイクロクレデンシャルという概念が近年,導入され始めました.欧州委員会(European Commission) のA European approach to micro-credentials定義によると,マイクロクレデンシャルは短期コースや研修などの短期的な学習経験の学習成果を証明するものであると説明しており,知識やスキル等の習得を支援するものと位置づけています.
マイクロクレデンシャルは教育を提供する機関等が発行し,学習者の知識・スキルを証明するものですが,そのクレデンシャルをデジタルに信頼ができる形で発行できる仕組みを構築したものがオープンバッジです。
マイクロクレデンシャルの文脈でよく言及されるオープンバッジは,2010年に初期のプロトタイプが開発されました.構想自体は Mozilla と Peer2Peer University,マッカーサー財団の協力によるホワイトペーパーであるOpen Badges for Lifelong Learningで,2012年にオープンバッジインフラストラクチャの公開ベータ版がリリースされました.
そして,現在,教育用システムの標準規格団体である1EdTech Consortium(旧IMS Global Learning Consortium)によるオープンバッジ標準規格の普及活動により,オープンバッジの関連機能開発が進められています.たとえば,国内で最も利用されているLearning Management System(LMS)であるMoodleでもver.3.8以降はオープンバッジの標準規格に沿ったバッジの発行が可能となっています.
そして,オープンバッジを発行・管理している団体・サービスも多く,たとえば、Credly や Canvas Badge等のサービスではオープンバッジの発行機能や学習者がバッジを管理できるダッシュボードを提供しています.国内でもオープンバッジの発行・利用事例は増加しており,サイバー大学では文部科学省が実施している 数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度 と連動して学内のカリキュラム受講者に対してオープンバッジを発行する取組を実施しています.また,デジタル庁はデジタル推進委員の資格保有者に対してオープンバッジを発行する取組を実施しています.
このようにオープンバッジの発行は進んでおり,発行されたバッジの活用もされています.たとえば,Credly等のプラットフォームでは取得したオープンバッジをSNS上でシェア・アピールする等の機能が提供されています.
本ページでは,オープンサイエンスに限らず,クレデンシャルの発行を支援する公的機関および団体による取組について説明しています.
クレデンシャルの発行に関して,世界の公的機関や団体による取組は多く実施されています。たとえば,有名なクレデンシャルの発行サービスとして以下のようなものがあります.
National Student Clearinghouse :アメリカ
1993年-
卒業証明書,成績証明書を発行
the Association of Registrars of the Universities and Colleges of Canada(ARUCC):カナダ
2020年-
成績証明書,卒業証明書,資格証明書,バッジ,その他の学業文書を発行
SURF:オランダ
2017年に 試験開始
オープンバッジを発行・管理
JISC:イギリス
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学位,成績について検証
1つ目のNational Student ClearingHouseは,1993 年に高等教育コミュニティによって設立された成績証明書の発行サービスです。タナ―(2022)によると,元々,学生向けのローン貸付プログラムにおいて,学生の機関への在籍状況や成績情報を取得する必要があり,プログラム側と機関側で円滑に学生の状況を共有するための設立されました.1カ月から2か月ごとに,学生に関する情報をNatinal Student Clearinghouseのデータベースへ送る仕組みをとっています.この機関から提供された情報を利用して,学生は証明書の発行を依頼できます.また,提供された証明書が本物か,企業が検証するためのサービスも提供されています.証明書の発行に関するサービスは教育機関・学生ともに無償で提供されています.上記も含め,この団体に関する歴史的経緯等は,独立行政法人大学評価・学位授与機構が公開しているタナ―(2022)ナショナル・ステューデント・クリアリングハウス ─アメリカの学位・学籍登録情報の保管と相互利用サービス─で詳細に説明されています.
2つ目のthe Association of Registrars of the Universities and Colleges of Canada(ARUCC)が提供するMyCredsは,学習者の卒業証明書・成績証明書を発行・管理するためのMyCredsポートフォリオをというサービスを提供しています.世界的なクレデンシャルの発行・管理プラットフォームであるDigitally社と協力してプラットフォームを構築しており,検証可能なVerifiable Credentialsを利用,自己主権型DIDに沿った技術を実現しています.カナダ全土の多くの大学が参加しており,証明書の発行に関する費用は大学の判断によって有料か無料が選べます.
3つ目のSURFによるEdubadgeは,オープンバッジの発行に特化したサービスです.オランダ国内の高等教育機関のマイクロクレデンシャル発行を支援するプラットフォームであり,バッジの発行から管理するためのウォレットの提供まで実施しています,サービスに先行して,オープンバッジとマイクロクレデンシャルについてまとめたホワイトペーパーであるWhite paper on open badges and micro-credentialsを作成しており,バッジ(学習を卒業証書よりも小さな単位に分割する),課外教育用のバッジ,ゲーム要素としてのバッジの 3 つのシナリオを紹介しています.これまでに2000以上のバッジが発行されており,単位数や教育レベルごとにバッジを検索することも可能です.
4つ目のProspects HEDDは,イギリスのJISC(Joint Information Systems Committee)という非営利団体によって提供されています.JISCはイギリスやアイルランドの高等教育機関向けに研究データ管理に関するトレーニング等を提供しています.JISCのサービスの1つであるProspects HEDDは上記3つのサービスと異なり,クレデンシャルの発行は行わず,雇用主,人材紹介会社,大使館,大学の大学院入学チームが候補者の学位資格を確認する際に情報を提供するサービスです.資格や成績の確認だけでなく,出席日や英国の大学やカレッジが認定された学位授与機関であるかどうかも確認が可能です,これまでに50万件以上の検証を実施しています.このサービスの狙いとして,偽の学位授与機関を特定しており,これまでに243機関の偽の学位授与機関を特定しています.